2026/5/11
身近になりつつある「3Dプリント」技術のいま | 話題となった建築事例も紹介
SHIBUYA109 lab.が発表した「Z世代が選ぶ2026年注目トレンド」では、「3Dプリンターキーホルダー」がモノ・コト部門の一つとして選出されました。

一見すると、若年層向けの雑貨トレンドに見えるこの動きは、3Dプリント技術が「特別な実験」や「一部の専門領域」にとどまらず、日常的なものづくりの手段として定着し始めていることを示す兆候と捉えることができます。
一方、「日経アーキテクチュア」2026年2月26日号では「超進化!建設3Dプリンター」と題した特集が組まれ、高級住宅からタワー、駅舎まで用途が広がっている現状が取り上げられました。

若者のカルチャーから建築の最前線まで、3Dプリントが同時に話題になっていること自体が、この技術がいま一つの転換点を迎えていることを物語っているのかもしれません。
本記事では、3Dプリント技術を取り巻く環境の変化と、日本での導入がどのように進んできたのかを整理しながら、建築分野で実際に用いられた事例を中心に紹介します。
3Dプリンターの原点は、実は日本だった
いまでは身近な技術として語られることも増えてきた3Dプリントですが、その原点が日本にあることは、意外と知られていないかもしれません。
1980年、名古屋市工業研究所の研究員だった小玉秀男氏が、新聞印刷の仕組みを三次元の造形に応用するというアイデアから、現在の3Dプリンターの原型となる「光造形方式」を考案しました。
しかし、日本では長らく、導入に慎重な姿勢が取られてきました。
その背景には、3Dプリントによる造形工程で材料の物性が変化し、従来の品質保証の枠組みが適用しづらい点や、国産メーカーの少なさ、日本企業が求める高い品質基準との乖離などがあります。建築分野においては、地震国特有の法規制や建築確認のハードルも、導入を慎重にさせてきた要因の一つです。
そのため、日本では、3Dプリントをいきなり主構造や量産用途に用いるのではなく、用途を限定しながら段階的に検討・導入する流れが続いてきました。これは普及の遅れというよりも、実用性や安全性を重視した結果ともいえます。
なぜ今、3Dプリントが身近な技術になりつつあるのか
一方で近年、その状況には変化が見られます。
学部や専門分野を問わず、学生が最新の工作機器を自由に使える「ものづくり施設」を設置する大学が増えてきました。たとえば、九州産業大学では2025年にクリエイティブセンター「コラボリウム」がオープンし、3Dプリンターやレーザー加工機などを学生が日常的に利用できる環境が整っています。他にも、京都産業大学や金沢工業大学、慶應義塾大学など、学部を問わずデジタル工作機器に触れられる場を設ける動きが広がりつつあります。
また、家庭用3Dプリンターの低価格化が進んだことで、個人レベルでも試行錯誤しながら技術を学べるようになりました。
こうした利用環境や教育機会の広がりを背景に、3Dプリントは「特別な技術」ではなく、まず使ってみる、試してみる技術として認識され始めています。

3Dプリンター建築の事例
こうした環境の変化を背景に、建築・不動産分野でも、3Dプリント技術を実務課題に即した形で活用する動きが広がっています。ここで重視されているのは、造形的な新しさだけではなく、工期短縮や省人化、環境負荷の低減といった現実的な効果です。
関西・大阪万博「森になる建築」

関西・大阪万博で展示された「森になる建築」は、3Dプリント技術を環境配慮や循環型設計と結びつけた象徴的な事例です。生分解性素材やリサイクルを前提とした材料を用い、建築が役目を終えた後の姿までを含めて設計されている点は、従来の建築とは異なる時間軸での価値提示といえるでしょう。
写真で見ても、その独特な存在感はすぐに伝わってきます。丸みを帯びたやわらかなフォルムに、周囲の緑と溶け合うような佇まい。コンクリートの建物とはまったく違う、どこか親しみやすさを感じる雰囲気が印象的です。
このプロジェクトでは、3Dプリントの技術的先進性以上に、なぜこの形で、なぜこの素材なのかをどう伝えるかが重要な要素となっていました。万博という不特定多数の来場者が訪れる場において、建築は単なる構造物ではなく、考え方やメッセージを内包したメディアとして機能しています。
空間表現やビジュアライゼーションが、技術理解や価値共有の入口となり、難解になりがちなテーマを直感的に伝える役割を果たしている点は、今後の建築表現やプロモーションを考えるうえでも示唆に富む事例です。
3Dプリンターによる鉄道駅舎

西日本旅客鉄道、JR西日本イノベーションズ、セレンディクスの3社は、老朽化が進む木造駅舎の建替えに対する新たな試みとして、建設用3Dプリンターを活用した駅舎建設を進めています。その第1弾として決定したのが、JR紀勢本線初島駅(和歌山県有田市)です。本プロジェクトは、3Dプリント技術を用いた鉄道駅舎建設として世界初の事例とされています。
新駅舎は鉄筋コンクリート造、延床約10平方メートル弱の平屋建てで、外形を3Dプリンターで出力したパーツを現地で組み立てる方式を採用。終電から始発までの約6時間で躯体を完成させる施工が行われました。外壁に目を向けると、躯体と一体で成形された丸みのある装飾に、型枠に縛られない3Dプリンターならではの自由さが感じられます。
人手不足や老朽化が進む地方インフラにおいて、短工期かつ省人化を前提とした施工プロセスは、持続的な運用を考えるうえで大きなポイントとなります。3Dプリント技術を従来工法の代替としてではなく、成立しにくかった工程を合理的に補完する手段として位置づけている点は、本事例の大きな特徴といえるでしょう。
一般向け3Dプリンター住宅

一般向け3Dプリンター住宅の分野で注目されているのが、セレンディクスによる継続的な実装の取り組みです。同社は2022年3月に「serendix10(スフィアモデル)」を約23時間で完成させ、同年10月には初回販売6棟を即完売。2023年には商用初の3Dプリンター建築となる佐久棟を完成させるなど、実証から実装へと段階的に展開してきました。
こうした流れの中で誕生したのが、日本初となる二人世帯向け3Dプリンター住宅「serendix50」。延床約50平方メートルの平屋建てで、建築基準法に適合した壁式鉄筋コンクリート造を採用。1LDKの間取りに水回りを備え、実際の居住を前提とした仕様となっています。外装には3Dプリンター造形時の積層痕を生かし、工程削減と独自の質感表現を両立しました。
販売第1号棟は能登半島地震の被災地である石川県珠洲市に竣工し、復興住宅としての可能性も示しています。短工期・省人化を強みとする3Dプリント住宅は、平時の住宅供給だけでなく、災害時の住環境再建においても現実的な選択肢となりつつあります。
被災された方が仮設住宅での長い生活を余儀なくされている現実を考えると、短い工期で水回りまで備えた住宅が届けられるというのは、それだけで大きな意味があるのではないでしょうか。
さいごに
今回紹介した事例に共通しているのは、3Dプリント技術そのものの新しさではなく、「なぜ使うのか」「どの課題に応えるのか」が明確に設計されている点です。
こうした取り組みが一つひとつ積み重なっていった先には、建築の現場にロボットや3Dプリンターが当たり前のように並び、建物が「建てる」ものから「つくり出す」ものへと変わっていく未来があるのかもしれません。
そうした変化の中でこそ重要になるのが、新しい技術や考え方の価値を社会に届ける空間表現やビジュアライゼーションの力だと私たちは考えています。複雑な技術や思想であっても、視覚的に伝え、体感できる形にすることで、共感や理解が生まれます。
アクアクリエイティブラボでは、建築や空間が持つ価値を、どのように伝え、どのように理解してもらうかという視点を大切に、CG・映像・ビジュアライゼーションの制作に取り組んでいます。計画段階の構想整理から、プレゼンテーション、プロモーションまで、空間の魅力を的確に伝える表現手法をご提案しています。ぜひお気軽にご相談ください。
お問い合わせ先:
東京オフィス、名古屋オフィス
林:t.hayashi@aqua-c-lab.com
関連ページ